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ピアノコラム piano column

 

[一生勉強一生青春]
68歳 Hさんの話

Hさんは66歳一人暮らしをしている。
子供の頃、少しだが、ピアノを習った事があると聞いた。
以前は歳の離れたお姉さんと一緒に暮らしていたが、80歳を過ぎたお姉さんが亡くなり、しばらくの間、毎日泣き明かしていたと言う。
薄皮がはがれる様に悲しみが薄れてきて、自分自身の生きがいを模索していた時、ふと、ピアノが弾きたくなったそうだ。

さてさて、この歳でピアノのレッスンを受けてもはたして指が動くようになるだろうかと、不安と少しの希望を持って私の所へとやってきた。
化粧っ気のない顔、さびしげな表情、大きなグランドピアノの前に座ったHさんは落ち着かない様子だった。
自分よりも年下の先生にピアノを習うのだ。
先生・・・そう声に出して呼ぶ事にもためらいがあっただろう。
「よろしくお願いします」消えそうなくらい細い声だ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」私は敬意をこめて深くお辞儀をした。

レッスンが始まると、思った以上に指が動くではないか!
楽譜の読み方こそ忘れていたが、ドレミまで来たらファの所で、親指をくぐらせソラシド!
ドレミファソラシド! 音階が弾けた! 覚えていたのだ!
60年ぶりのピアノ!
その間一度も弾くことのなかったピアノ!
すっかり忘れていたと思っていたピアノ!
Hさんの驚く顔!

「まあ! 私の指が勝手に弾いて・・・」
そう、自転車や水泳と同じで、ピアノも一度身に付けたモノってちゃんと体が覚えていたのだ。
レッスンは穏やかに続いていった。
すると、Hさんはレッスンに来るたびに、少しづつ綺麗になっていた。
髪をととのえ、口紅を差し、洋服に気を配り、おしゃれになっていったのだ。
週に一回のレッスンに来るのが、今のHさんの楽しみになっている。
レッスンではピアノの事だけでなく、食べ物のこと、健康のこと、思い出話と、色々な話題に花が咲く。

今年のお正月には初詣に行き、おみくじをひいたら、「大吉!それにね、先生、良縁来たる!って書いてあったんですよ!」そう言って、恥ずかしそうに笑った。

一生勉強、一生青春! がんばれ!Hさん!


長廻かおる

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