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ピアノコラム piano column

 

[80歳の生徒さん]
ひ孫と一緒にレッスンを

「3才の女の子のピアノのレッスンをお願いします」と、お母さん(29才)にだっこされやってきたのは、少しのびた髪を2つに結び、水玉模様のワンピースを着た、色白な小さな女の子。
レッスンが始まり、しばらくするとお母さんの代わりに、近所に住んでいる彼女のおばあ様(55才)が、「子守りなんですよ」と言って一緒に来る事がたびたびあった。
その後、今度は彼女の曾祖母、つまり、ひいおばあ様(80才)も時々一緒に来るようになった。

聞くと、お母さんがお仕事を始める事になったので、その間は二人のおばあ様が子供を預かっているのだとの事。
二人のおばあ様は、何やらとても楽しげに子供のレッスンを見ていて、愛しい者の成長を心より楽しんでいるように、子供が上手に弾けた時も、又弾けない時でも「上手、上手、がんばったね」と声をかけてくださった。
暖かい声援に見守られるように、まだ3才の彼女はずい分と上手に指を動かす事ができるようになり、半年程過ぎたころには 両手で「ちょうちょ」や「チューリップ」など弾けるようになってきた。

そんな頃、いつものレッスン時間でない時に「ピンポーン」とドアチャイムの音がした。
「宅配かな?」と思って玄関を開けると、そこに立っていたのは彼女のひいおばあ様だった。
「先生、私にもピアノを教えてください。」小さな声は少し震えているようにきこえた。
とりあえずお話を伺わせて下さいと、部屋に入って頂いた所、いつもは物静かであまりお話にならない方と思っていたひいおばあ様は、セキを切ったかのように話はじめた。

「先生、私もピアノを弾けるようになりたいのです。私は今まで一度もピアノを習ったことなどありませんが、今からでも弾けるようになりますか?」
聞くと、子供のころは、「音痴」と言われ、人前で歌う事が嫌いだったけど、音楽を聴くのは大好きだったとか。
当時は自宅にピアノがある家は珍しく、学生時代は戦争で生きるだけで精一杯で、戦後は子育てや、舅、姑の世話で忙しく自分の事など考える事も出来ない状態だったそうだ。
ようやく、少し余裕が出来、孫がピアノを習いたいといった時、何と羨ましい事かと思い、孫にはピアノをプレゼントしたほど。
孫のピアノの発表会の時など、自分も弾けたらどんなにか楽しいだろうかと思い、家に家族が誰もいない時など、そっとピアノの蓋を開け、孫が弾いていたバイエルの本を自分なりに練習してみたりしたけど、楽譜がよく解からなく、指が思うように動かないのと、誰かに聞かれたら恥ずかしいと思い、諦めていたそうだ。
でも今、自分は80才になり、ひ孫のレッスンに一緒に通うようになり、こんなにも丁寧にわかりやすく教えてもらえるのなら、何だか自分にも出来そうな気がしてきたとか。
「80の手習いですが・・・」と言って少し頬を赤らめ伏し目がちに私を見つめる。
「もちろんです!一緒に音楽を楽しみましょう!」

そうして、80才の生徒さんのレッスンが始まった。
その後、レッスンは7年間続き、途中ご病気で入退院で中断した時期もあったが、とうとう憧れの曲「エリーゼのために」を弾けるようになった。
長年の目標だった「エリーゼのために」を、初めて人前で弾けるところまで上手になったのだ。

私はこの87才のピアニストのためにコンサートを企画した。
家族、親せき、友人、ご近所さんなど彼女のお知り合いを集め、みんなに「エリーゼのために」を聞いて貰ったのだ。
生まれてはじめてのロングドレスに身をつつみ、緊張と恥じらいに頬をそめた彼女の演奏に皆は拍手、拍手、拍手!!!!
本当に感動の演奏会!
演奏会の後は皆で楽しくお食事会となり、夢のような一日となった。

付け加えて言うと、その後、彼女は介護施設に入られたが、毎月だれかのお誕生日には、お祝いにと「エリーゼのために」を施設のホールにあるピアノで弾いてくれるそうです。

素敵な先輩! あなたに会えてよかった!


長廻かおる

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