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ピアノコラム piano column

 

[登校拒否の生徒さんの話]
ピアノのレッスンには来るのです

[登校拒否の
生徒さんの話]
ピアノのレッスン
には来るのです

Kさん(小2)は幼稚園年中から私の所でリトミック、小学生になってからはピアノを習っている。とても感受性が強く繊細な神経の持ち主だ。まつ毛が長くパッチリとした大きな瞳が何だか近頃輝いていない。
「よろしくおねがいします…」始まりのご挨拶の時も伏せ目がちだ。
ピアノの練習はいつもの様に毎日少しだが、キチンとやってくる。ドレミを書く宿題もちゃんとやっている。ミスは無い。レッスン中は、先生の話を聞き、反応は悪くない。
取り立てて問題は無い、優等生だ。

だが…何というか…もともとオトナシイ子だが、何だか生気が感じられないのだ。
何かトラブルでもあったのだろうか?
ピアノのレッスンを振り返ってみるが、特別コレといった注意を受けたわけでもなく、実に淡々と弾いている。それなりに…だ。
ただ…何というか…楽しそうじゃないのだ。
スラスラとピアノを弾くその顔には、表情が無い。
何を考えているのだろう?
どうにも心の内が読めないのだ。

その時、携帯電話が鳴った。あわててお母さんが部屋から出て行った。
私は思い切ってKちゃんに聞いてみた。
「何か心配な事でもあるのかな? ピアノはね、心の中をうつす鏡なんだよ。Kちゃんが今悩んでいる事…、先生にお話ししてくれないかな? ピアノがね、『せんせいー、たすけてー』って言ってるよ。」
私はKちゃんの小さな手を自分の手の上に重ねた。
しばらくじっとしてると、Kちゃんの大きな瞳が涙の洪水になった。
「やっぱり…」心に秘めた何かがあるのだ。
「大丈夫よ、先生Kちゃんの事大好きだから、何でもお話して。誰にも言わないってお約束するからね。」
そう言って、右手の小指をKちゃんの小指にからめた。無言のゆびきりだ。
Kちゃんは涙を拭く事も無く、静かに泣いていた。

お母さんが戻ってきた。
私はお母さんを制し、隣の部屋で待っていてもらうように頼んだ。
こういう話は、たとえ親子でも、いえ、親子だからこそ、別々に二人きりの方が話しやすい。ひとしきり泣いて落ち着いたのか、Kちゃんは自分から話し始めた。
どうやら、小学校の隣の席の男の子が問題らしい。
彼は毎日教科書を忘れてはKちゃんに見せてもらう。鉛筆、消しゴムも持ってこない。
授業中は騒いでばかりいて、クラスは彼のせいでメチャクチャ状態らしい。
よく聞くと、彼は外国人で、日本語が全く話せないそうだ…
なるほど、彼にしてみれば、何を言っているのか言葉が分からない中で、一日中じっと座っているのは、まるで拷問を受けている様に辛いだろう。つい、隣のおとなしいKちゃんにチョッカイを出すのだろう。Kちゃんはそれが嫌で嫌でたまらないのだ。
すっかり学校に行くのが嫌になったKちゃんは、もう2週間も学校を休んでいる。
学校はお休みしているけど、ピアノのレッスンには来ているのだ。
Kちゃんの不登校をこのままにしておくわけにはいかない。

その日の夜遅く、Kちゃんの家に電話をかけた。重大な問題だ。
電話口のお母さんは驚いていた。Kちゃんが不登校なことは、だれにも秘密にしていたそうだ。仕事の忙しいお父さんにも。
お母さんは一人で、何とかしようと思ったが、Kちゃんがガンとして話をしてくれなくて、困り果てていたそうだ。
私は、子供の問題は父親とも話をすべき。学校の問題は担任の先生に相談すべきと、アドバイスをした。

子供は母親が一人で育てているのではありません。
子供は私たち皆の宝です。
Kちゃんも、言葉が分からなくて困っている隣の子も、安心して学校生活が送れるように、担任の先生だけでなく、周りの他の先生達の助けも必要です。
先生はどんなに忙しくとも、子供の話を聞いてください。
生徒あっての先生です。
生徒あっての学校です。
そして、楽しくピアノを弾こうよ!


長廻かおる

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