1. TOP
  2. レッスンについて
  3. ピアノコラム
  4. [ピアノやめる!]車に籠城したS君の話

ピアノコラム piano column

 

[ピアノやめる!]
車に籠城したS君の話

S君は小学校6年生。小柄だが、すっきりとした顔立ちのイケメン君だ。
小学校1年生から、私の所でピアノを習っている。また他で、バイオリンも同時に習っていて、週末はジュニアオーケストラで合奏をしたり、ひんぱんにコンサートに行ったりと、教育熱心なお母さんのもと、恵まれた環境で勉強している。
フルタイムで仕事をしているお母さんはS君の送り迎えにと大忙しだ。
一人っ子のS君は、ナイーブで傷付きやすいが豊かな感性をもっている反面、頑固で気難しい所もあり、その気まぐれとも見えるわがままに、お母さんは振り回される。
理想は高いのだが、現実を認めることが苦手なのだ。
子供とはいえ、小学校6年生ともなれば自分自身の考えや好みが出てくるのは当然の事。
お母さんの期待する様にはなかなかいかない。

そんなある日のことだ。
約束のピアノレッスン時間になってもS君が来ない・・・
レッスン時間に送れる時や、お休みの時はいつもお母さんから連絡がくるのだが、どうしたのだろう?
しばらく待っていたが・・・来ない。
駐車場を見ると、S君の車があるではないか!
もしかして、体調でも悪いのだろうか? それとも、眠ってしまったかな?
待っていると、お母さんが来た。

「先生、すみません。Sがピアノをやめると言って、車から降りないのです。」お母さんの小さな声が震えている。
「そうですか。では、少しS君とお話がしたいので、取りあえず、お部屋にお入りください。」と私は言った。
ところが、S君は車から降りてこない。
お母さんがいくら言ってもS君は車の中でからだを固くしたまま降りてこないと言う。
しかたがない。
私が駐車場へ行った。

「どうしたの? 話があるのなら、お部屋でしましょう。」私は出来るだけさりげなく言った。
「・・・・」 返事がない。
「赤ちゃんじゃないんだから、ちゃんとお話ししましょう!」強く言った。

「ピアノやめる!」S君の泣き声だ。
とうとうS君は車から出てこなかった。


次のレッスン日、いつものようにS君はレッスンにやってきた。
そして何事も無かったかのように、レッスンは行われた。
「どういう事?」
お母さんには席を外してもらいS君と二人きりで話をした。

ピアノが嫌いになった訳ではない。ただ、ピアノやバイオリン等のレッスン時間にバスケットボールやサッカー等を友達と一緒にやりたいのに親に反対されたのがイヤだった事、今までずっと我慢してきたと言う。
S君は静かに話してくれた。

「S君、今話してくれた事、きちんとご両親に話しなさい。言っても分かってくれないのではなく、分かってもらえるように話しなさい。そして、またピアノが弾きたいと思ったら、その時は自分で先生に電話をして下さい。先生電話待ってるからね。」
そう言って、私はS君を帰した。

その後S君からは連絡はない。
友達とバスケットボールをやっているのだろうか?
サッカーをやっているのだろうか?

またピアノやれるといいねS君!


長廻かおる

Back to List

 
ページのトップへ戻る