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ピアノコラム piano column

 

[嫁に遠慮する姑]
子はかすがい

6歳のNちゃんのご両親は二人とも小学校の先生だ。
お母さんは、二人の子供の子育てをしながら、小学校の音楽の教員をしている。
一家は2世帯住宅の2階に住み、1階には父親方の両親が住んでいる。それは、お母さんの方から見れば、1階には舅、姑がいることになる。
毎日大忙しだ。朝、Nちゃんと2歳年上のお兄ちゃんは同じ小学校だが、お父さん、お母さんはそれぞれ別の小学校に行っている。 朝は皆一斉に出勤だが、帰りの時間はそれぞれ、まちまちだ。

1年生になったNちゃんが一番先に帰ってくる。
「ただいま!」帰宅先は1階のおじいちゃん、おばあちゃんの所だ。しばらくして、3年生のおにいちゃんが帰ってきたら、両親が帰宅するまで、1階で過ごす。
お母さんが帰宅できるのは、早くて7時過ぎ。8時過ぎる事もある。
それから、大急ぎで晩御飯の準備をし、お風呂の用意をしたり、子供達の宿題を見たりと息つく暇もないくらい忙しい。時には、自分の残業もあるのに。

一日中忙しいNちゃん一家だが、お母さんはNちゃんにピアノを習わせたいと、私の所にやって来た。お母さんが音楽の先生なのだから、自分の子には自分で教えれば良いと思うだろうが、Nちゃんのお母さんは違った。
「仕事場でいつも先生をしているからこそ、家庭では、普通のお母さんでいたい。」と。
「責任を持って指導させていただきます。レッスンはNちゃん自身と先生とで進めるので、お母様が毎回付き添わなくても大丈夫ですよ。」私がそう言うと、忙しいNちゃんのお母さんは、少し安心した様だ。
現実問題として、親の仕事が終わってからレッスンとなると、夜8時過ぎになってしまう。
小学校1年生なら、そろそろ寝る時間だろう。そんな遅い時間にレッスンだと、大抵子供は眠くて機嫌が悪い中ピアノを弾く事に成る。楽しい時間には成らないだろう。
Nちゃんの送迎はおばあちゃんにお願いする事となった。
レッスンが始まった。
小学校から帰って来たら、おばあちゃんがNちゃんを連れてきた。
ところが、Nちゃんは玄関先でぐずっている。
「やだ!やだ!帰る!」泣いている。
「そんな事言わないで、ピアノのレッスンに連れていくとお母さんに約束したんだから、ちゃんとやって頂戴。」おばあちゃんの声は震えている様に聞こえる。
「やだ!絶対やだ!」大声で泣き出した。
困り果ててるおばあちゃんの顔。

私は玄関ドアを大きく開け、おばあちゃんを手招きした。
「まだ心の準備が出来ていないのでしょう。無理強いせず、今日は玄関までお入りください。」一回目のレッスンは玄関で行う事にした。
べそをかいているNちゃんを横に座らせ、じゃんけんゲームで指番号を教え、手拍子をしながら自分の名前を言った。すると、おばあちゃんが乗って来てくれた。
私はおばあちゃんと両手タッチのリズム遊びをNちゃんに見せ、一緒にやろうと誘った。
少々ぎこちないながらも、Nちゃんは先生とも手をつなぐ事が出来た。
「今日はここまでね。続きは来週のおたのしみ!」

そんなレッスンが一月ほど続き、Nちゃんの心の準備が出来たのか、ようやくレッスン室の中に入れるようになり、ピアノのレッスンが始まった。
あんなに泣いて嫌がっていたとは信じられない位Nちゃんはピアノを一生懸命弾いている。
家での練習はちゃんと一人でも、宿題の分は練習して来る。
どうやら、送迎してくれているおばあちゃんがNちゃんに声かけをしてくれている様だ。
レッスンは休む事無く続いている。
Nちゃんはどんどん上手になって来た。
発表会の時もNちゃんは立派だった。堂々として、生き生きとした音で、楽しそうに演奏していた。
毎日の練習は見た事が無いNちゃんのご両親がびっくりするほどだ。
「先生のおかげです。」とNちゃんのご両親が挨拶に来た。
「Nちゃんの成長は、毎日、声掛けしてくれたおばあちゃんのおかげですよ。」私が言うと、おばあちゃんはあわてて、「とんでもない、私はただ送迎しただけですから…」と遠慮がちに言う。
「いいえ、毎回のレッスンを見守って頂き、毎日の練習を励ましてくれたからこそ、Nちゃんだって、練習を続ける事が出来るのです。」

「いつも、ありがとうございます。」Nちゃんのお母さんが改めておばあちゃんに言った。
「いいえ、いいえ、私はただ送迎しているだけで…」控えめなおばあちゃん。

みんなに支えられているんだよ!がんばろうね!Nちゃん!


長廻かおる

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