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ピアノコラム piano column

 

[夜逃げをしたMさん]
最後のレッスン

優しい感じがする親子だった。
お母さんによく似たMちゃんは3歳の女の子。少し恥ずかしがり屋さんで、レッスンの時はいつもお母さんのスカートのはしをにぎりしめながらも、先生のする事をじっと見ていた。
「今日はレッスン?」と毎日聞くんですよ。と、親子一緒のリトミックに来るのを毎回楽しみにしている様子だった。
Mちゃんのお母さんは23歳と若いながらもとても熱心に、教育一般のことから躾のことまで、色々と私に聞いた。
自分が子供の時、やはりピアノを習っていたそうだが、両手で弾けるようになる前にやめてしまった事をくやんでいると言っていた。
だからこそ、Mちゃんにはちゃんと弾けるようになって欲しいのだ。
しばらくして、リトミックと並行してピアノのレッスンも始まった。
親子共々ピアノのレッスンが楽しくてたまらない・・・
そんな嬉しい話を聞くのは、先生としてもとても嬉しいものだ。

そんなある日の事、いつものように、穏やかで、楽しいレッスンが終わり「せんせい、さようなら」と帰った後だ。
夜遅く、12時少し前頃だ。ピンポーンとドアチャイムが鳴らされた。
こんな時間に、、、誰だろう?窓からのぞいて見ると、Mちゃんの車だ。
何かあったんだろうか?

玄関を開けると、泣いていたのだろうか・・・目を真っ赤にし、悲壮な顔をしたMちゃんのお母さんが立っていた。
「先生、すみません・・・こんな時間に・・・でも、先生だけには・・・。申し訳ありません・・・」
Mちゃんのお母さんは泣きながら話してくれた。

Mちゃんのお父さんの仕事、経営していた飲食店が倒産。仕事が上手くいってない状態だったが、心配かけないようにと、お父さんは1人で金策に駆け回っていたが、とうとうどうにもならない状態にまで追い詰められ、借金取りが家にまで押しかけて来たのだと。
Mちゃんのお母さんは全然その事を知らなかったそうだ。
今日のレッスンが終わって家に帰ったら、借金取りたての人たちが家を取り囲んでいて初めて事の重大さに気が付いたのだ。
もっと早くに気付くべきだった・・・そう言って泣いていた。
Mちゃんとお母さんはとりあえず、実家の名古屋まで、これから車を飛ばすと言っていた。
そして、お父さんは、友人を頼って北海道に行くのだと。
しばらく落ち着くまでは・・・そう言ってまた泣いた。
「先生、すみません・・・今月のお月謝もまだお支払していないのに・・・落ち着いたら必ずお支払しますから・・・」そう言って、何度も何度も頭を下げ、後ろの座席で毛布にくるまれ眠っているMちゃんを乗せ、二人は行ってしまった。
大変なことになった。

Mちゃん、今頃はもう小学生だね。元気にしているかなあ。


長廻かおる

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