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ピアノコラム piano column

 

[ヘルメットのお母さん]
本物のピアノを買ってあげたい

[ヘルメットの
お母さん]
本物のピアノを
買ってあげたい

ある日のこと、いつもの道を車で走り抜けようとしたら、残念!渋滞であった。
どうやらその先の道で工事をしているらしい。
しょうがない、と思い、誘導灯を掲げている係の人に従い、徐行運転で片道通行が変わるのを待っていたときだ。
「先生・・長廻先生ですね!」
と、大きな声で私を呼ぶ人がいた。
誰だろう?と窓を開けてみると、そこには砂埃にまみれ、大きなヘルメットをかぶった女性が立っていたのだ。

「R子の母親です。いつもR子がお世話になっております。始めはピアノのレッスンが続くかどうか、心配していたんですよ。でも、案ずるより産むがやすしって本当ですね。いまでは、小学校から帰るとすぐにピアノに向かって、学校の音楽の時間に習った歌を楽譜も無いのに、さぐりながら弾いて、なんとか弾けるようになるんですから。レッスンの曲も今では自分一人で譜読みをして・・・先生のおかげです。ありがとうございます。」
と言って、砂にまみれたヘルメットをはずし、深々と頭を下げたのだった。

ええっ!!
R子ちゃんのお母さん?
私はびっくりしていた。
レッスン室で見るR子ちゃんのお母さんは、いつもエレガントな洋服で、物静かなお嬢様風な様子だったからだ。
目の前のヘルメットの女性がR子ちゃんのお母さんとはすぐには信じられなかった。
驚いている私に「明日のレッスン、よろしくお願いします」と再び頭をさげ、彼女はヘルメットをかぶり直し、工事現場へと戻って行った。

次の日、R子ちゃんと共にレッスンに現れた彼女は、いつものエレガントな洋服で、いつものように静かにレッスンを見ていた。
レッスンの後、そのお母さんは、「先生、驚かせちゃいましたか?私、バイトで工事現場やってるんです。何とかR子に本物のピアノを買ってやりたくて。だって、R子のピアノがどんどん上手になってきて、本人も一生懸命やっていますし、親としては、応援したいじゃないですか。」

そうなんです。
R子ちゃんは今、電子ピアノで練習をしているのです。
音符を読む練習の段階の生徒さんなら、電子ピアノで十分なのですが、さすがにR子ちゃんのように、レベルが上がってくると、本物のピアノで練習しないと音のバランスや表現力、ペダルを使った響きのコントロールが出来ないのです。
R子ちゃんのお母さんはちゃんとその事をわかってくれていたのです。

子を思う心に勝る者なし! 頑張れ! R子ちゃん!


長廻かおる

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