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ピアノコラム piano column

 

[入学試験会場のハプニング]
泣きながら演奏した学生

[入学試験会場の
ハプニング]
泣きながら
演奏した学生

音楽大学進学希望者は皆、入学試験において、実技試験を受けなければならない。
もちろん、筆記試験もあるが、音楽大学では、実技が最も重要だ。
それぞれの楽器の専門の先生達の前で、何ケ月もかけてあらかじめ準備した曲を弾く。
ただそれだけの事なのだが、発表会やコンクールとは違う、独特の緊張感が有る。
受験生は皆、緊張している。震えているように見える生徒もいる。
そんな受験生の中に彼女がいた。

試験会場は大きな教室。中央にグランドピアノが一台。その前には長机が置かれ、試験管の先生達がズラッと並んでいる。
音楽会にあるような華やかな雰囲気など微塵もない、殺風景な会場だ。
緊張するな、いつもの様に…などと言ってもそれは無理。そんな所で演奏するのだ。
セーラー服を着た彼女は、長い髪をひとつに結び、両手を固く握りしめたままお辞儀をし、演奏を始めた。一曲目のバッハは、丁寧に演奏された。日頃の勉強の様子が伺える。

二曲目のベートーベン ソナタを弾き始めた所で事件が起きた!
一瞬だが、つっかえたのだ。
演奏を止めることなく、『ケアレスミス』として、そのまま弾き続けるのが普通なのだが…

「うっつ、うっつ…」嗚咽が聞こえた。
「ん?」何の音?
「えっつ、えっつ…えーん、えーん」何と!声を出して泣いている!
その受験生は、声をあげて泣きながらピアノを弾き続けているではないか!
3メートルほど離れて座っている試験管の先生達にもはっきりと聞こえるほどの大きな声。
思わず先生同士で顔を見合わせてしまった。
涙をポロポロとこぼしながら、ベートーベンを弾く手は止まらない。ちゃんと演奏しているではないか!
それは、テクニック的にも音楽的にもしっかりとしたものだった。
演奏が終わるまで、泣き声は止まらず、演奏が終わると、両手で涙をぬぐいながら、お辞儀をして試験会場を去って行った。

何という事だ!
トチったり、つっかえたり等、良くある事だが、入学試験会場で泣きながら最後まで弾き切った生徒を見たのは初めてだった。何だか胸が熱くなった。

がんばったね! 合格してると良いね! 受験番号○○さん!


長廻かおる

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