音楽大学に入学すると、色々な場面で演奏する機会がある。
前期、後期といった年2回の実技試験の他にも、公開レッスン、オーディション、学内、学外コンサート等、それらは、本番での舞台経験が芸術家をそだてる大きな栄養となるからだ。
それぞれの時、それぞれの場、それぞれの曲に合わせた衣装を着て本番を迎える。
学内試験の時は、ブラックフォーマルに決まっている。

ところが…だ。ブラックのドレスがイロイロなのだ。
試験会場での学生ピアニスト達は皆、黒のドレスを着て演奏する。

その女子学生がピアノの前でお辞儀をした途端、一瞬会場がどよめいた。
腰の所まで広く背中の空いたその黒いドレスは身体のラインにピッタリと張り付くようにセクシーだ。深く入ったスリットは太もも近くまでも見える。

これってブラックフォーマル？
同性の自分が見てもドキドキするくらいなまめかしい姿。

彼女の演奏自体は、それなりにキチンと魅かれていたが…よく覚えていない。
次の演奏者もまた凄いブラックドレスだ。
お辞儀をした時、ハッキリ見える胸の谷間、細い肩紐はキラキラと輝き、ロングスカートは透ける様に薄く、まるで裸の様に太ももが透けて丸見えだ。

彼女達が演奏した後、休憩を取ることになった。話題は当然あのドレス！だ。
ブラックフォーマルを何だとおもっているのか？先生達の中には、怒りをあらわにしている人もいた。
試験に対する冒涜だ！
試験不合格で留年だ！と言う先生もいた。

全ての実技試験が終わり、大学のロビーに行くと、先ほどのセクシードレスの二人がいた。
「そのドレス、どこで買ったの？」話しかけてみた。
すると、彼女達はあっけらカーンと答えた。「借り物でーす。」
「借り物って…あなた達誰から借りたの？」
「クラブ○○です。」悪びれる様子は微塵も無い。
ええっつ！クラブ○○って、確か、駅近くのキャバクラ！
ドキドキしながら聞いた。
「あなた達そこでアルバイトしてるの？」
すると、彼女達は突然大声で笑い出した。「ヤダあ！先生、違いますよ。そこのクラブの店の前で、ガレージセールやっていて、たくさんドレス売っていたんです。その中に、黒いドレスがハンガーにかかっていたから、今度の試験はブラックだって聞いてたけど、お金ないし、安くしてしてほしいなあ、って言ったら、タダで貸してくれたんです。試験が終わったら返しに行きます。」まだ笑っている。

なーんだ！そうだったのか！キャバクラ嬢のドレスだったのか、どうりでセクシーだ。
彼女達はブラックフォーマルの意味を知らないらしい。
何も黒のロングドレスじゃなくても良いのです。白いブラウスに黒の短いスカートでも。
要は、フォーマルな場所、改まった場所という意識を持って、試験に臨む事こそが大切なのだが、まさかキャバクラ嬢のドレスを着てくるとは…

セクシードレスの御嬢さん！君たちはオトナなんだよ！常識と良識くらい持ちたまえ！

長廻かおる