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ピアノコラム piano column

 

[マイカーの中でのお弁当]
コミニュケーションがとれない先生

[マイカーの中で
のお弁当]
コミニュケーション
がとれない先生

音楽大学に車で出勤した時の話だ。
お昼休み、車の中に忘れてきた楽譜を取りに行った。
何か音楽が聞こえる。
ん?どの車?カーステレオ?
こんな時間に誰かいるのだろうか?
あたりを見渡したが、人の気配がしない。でも…小さいがピアノの音が聞こえる。
音の先をたどってみると、いた!真っ赤なスポーツカー!
○○先生だ!
運転席に座りお弁当を食べていた。目が合ってしまった。
思わず会釈をし、急いで通り過ぎた。
何だか見てはいけない物を見てしまったのか?

気に成る。
警備員さんが見回りに来た。敬礼のポーズだ。
「お疲れ様です。」顔見知りの警備員さんだ。
「ずいぶん暖かくなりましたね。」会話が続く。
私が、気なっているカーステレオの○○先生の事を聞いてよいものかどうかを躊躇しているのを察したのか、「○○先生は今日も車中でお昼です。」と話が飛んだ。
「今日も?」
どうも、○○先生はいつもお昼は駐車場のマイカーの中で、カーステレオを聞きながらコンビニ弁当を食べているそうだ。

○○先生と言うのは、有名音楽大学、大学院を卒業し、海外に長く留学されていて、有名なピアノコンクールで賞を取り、CDも発売され、今まさに人気実力共に兼ね備えた超エリートのイケメンピアニストだ。
コンサートでは、いつも高い評価を得ている。
演奏家としては人気が高い。そんな彼がコンビニ弁当…

ただ、学生の話によると、この○○先生は、レッスン中、ほとんど話をしないそうだ。
学生の演奏をじっと聞いていて、その後自分が演奏する。
特別、アアせい、コウせい等注意をするでもなく、曲の説明をするでもなく、その代り、お手本を示すがごとく、自らが演奏する。
まあ、一部の芸術家にありがちなタイプだ。
ただ彼は学生が挨拶しても、黙って会釈をするだけ。何か話しかけられるのを極端に嫌うそうだ。
結局、レッスン中は無言のまま…
ピアノの音だけがなっている…
学生達の解釈だと、自分らの実力不足に指導する気が無いのだろう、と言う事に成る。
あまりの空気の重さに耐えかねて、「すみません…もっと練習してきます。」と、学生が謝って、レッスン終了。

おかしいではないか?
大学のレッスンは演奏会開場では無い。
そんなレッスンで、何か得るものはあるのだろうか?
何か勉強に成ったものがあったのだろうか?

そんな疑問を持っていた時、ちょうど○○先生のリサイタルがひらかれた。
前評判の高いリサイタルは、満席だ。
素晴らしくキレのある演奏、技術的にも完璧!
音楽的にも芸術性の高いものだった。
確かに演奏家としては一流だ。

そんな素晴らしいピアニストに憧れて集まって来た学生達だったが…
一人、また一人と彼のもとを去って行った。
「すみません」と言いながら…
そして、いつしか○○先生自身も…大学を去って行った。
しばらくの間はコンサートピアニストとして活躍されていたが…今は、彼の事を耳にする事すらない。

今頃どうしているのだろうか?
一人でピアノを弾いているのだろうか?
せっかくの素晴らしい音楽を、誰か聴いてくれる人はいるのだろうか?


長廻かおる

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