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ピアノコラム piano column

 

[転校生]
他の先生から移ってきた生徒さん

「ホームページを見ました。レッスンをお願いします。」と電話を頂いた。
すでに他の先生の所で5年ピアノを習っているが、先生を替わりたいそうだ。
引越し等、やむを得ない場合はともかく、同じ地域で先生を替わると言うのは、何か問題が起こった場合が多い。こういう場合、詳しく話を聞かねばならない。
とりあえず、体験レッスンを受けて頂く事とした。

大人しそうな感じのする小学校4年のRさんは、お母さんの隣で落ち着かない様子でいた。
それでも、じっと私を見つめる。何か言いたげだが…
日常生活や学校の様子等、ひと通りの話をきき、「何か自分の好きな曲、弾いてくれる?」と聞くと、少し困った顔をし、今練習しているからと、湯山 昭作曲『お菓子の国』の中の一曲、シュークリームを弾き始めた。
聴いていると、音やリズムが違っている、テンポも速くなったり遅くなったり、不安定だ。
見ると、指使いがメチャメチャだ。これでは音楽をつなぐ事は不可能だ。
案の定、途中でつっかえ、止まってしまった。

「ずいぶん難しい曲を練習していたんだね。せっかくだから、今のつづき、最後まで弾きましょう。」と言って、ここから、と楽譜を指した。
Rさんの困った顔。指が止まったままだ。
ここから、が解からない様だ。
楽譜が読めていない!
ピアノを習ってすでに5年が過ぎている。 どうやら、今までずっと耳コピーで、先生の弾く曲をマネしてきたのだ。
簡単な、短い曲なら、それでも何とか弾けただろうが、♯、♭、♮、等多く出てくる難しい曲になったら、耳コピーでは限界だ。

5年も習ったのに…と驚かれるかも知れないが、実は…と言う人は多い。
なまじ耳が良い人ほど、なまじ指が良く動く人ほど、実は自力で楽譜が読めないことがままある。それは、生徒さん本人の努力不足と言うより、基礎を指導している先生の方が問題なのだ。
初めてド、レ、ミ、を習う時にこそ、キチンと読譜の指導をしなくてはイケナイ。
タイミングを逃すと、生徒さんも読むのが面倒になって来る。
先生の方も教えるのが困難だ。耳コピーで指だけ動かして曲を弾けた方がずっと簡単だ。

どうやら、Rさんは読譜がキチンと出来ないまま、成長したらしい。
ナルホド…このままでは上達は望めまい。
何とか、自分自身で楽譜を読めるようにしなくては!
「ピアノは好き?」私は不安でおびえているRさんに聞いた。
こっくりとうなずいた。
「ピアノ上手になりたい?」
「はい!」はっきりとした声だ。
「楽譜の読み方からのスタートになるけど、頑張れるかな?」
「はい!」大きな元気の良い声だ。

私はRさんに、基礎をやり直すのではなく、復習をしっかりする事が上達の秘訣だと説き、五線譜を広げ、ここがド、レ、と書いた。じっと見つめていたRさんの口からミ、ファ、ソ…と声が続いた。
加線の所まで来ると、声が止まった。
加線の説明をする。Rさんの瞳は真剣だ。
「大丈夫! 一歩一歩だよ! 先生と一緒にすすみましょう!」
Rさんの顔がぱっと明るくなった。
隣のお母さんのホッとした顔。

ようこそ転校生! 新しい私の生徒さん!


長廻かおる

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