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ピアノコラム piano column

 

[才能ありますか?]
才能があるのならやります

[才能ありますか?]
才能があるのなら
やります

「先生、うちの子に才能ありますか?才能あるなら、ピアノを習わせようかと思うのですが・・・うちの家系には音楽家はいないし・・・親の私は楽譜も読めないし・・・私にはこの子に才能があるとは思えないのですが、本当の所どうなんでしょうか?」お母さんはそう言ってじっと私を見た。
「才能ありますか?」なんて突然きかれても・・・困った。
何故なら、私はその女の子のピアノを聴いた事もないし、第一、初対面ですぐに判るほどの才能ってなんだろうか?
私の方こそ教えてもらいたい。

事の始まりは1週間前の電話だった。

小学校3年生のYちゃんが突然ピアノを習いたいと言い出したそうだ。
家族は誰も音楽をやっていないし、特に音楽好きでもないし、カラオケに行くわけでもない。
「たまたま小学校のお友達がピアノを弾いているのを見て興味を持っただけです。」と、お母さんは言った。
「ピアノなんて才能がなきゃ上手になんかならないよ!」と言ってあきらめる様に言ったんですけど、そうしたら、この子が、『才能があればピアノを習わせてくれるの?』って引き下がらないものだから、それなら専門家の先生に才能があるのかどうか見てもらおうと言う事になって・・・
先生、この子に才能があるかどうかみてください!」
そう言ったお母さんの目は真剣だった。隣に座っているYちゃんは目をふせ、その両手は固く握りしめられている。
ヤレヤレ・・・私は笑い出したくなる様な気持ちをぐっとこらえて、静かに聞いた。
「では、私が才能があると言えばピアノを習い、ないと言えばやめるのですか?」
「えっ? は、はい。」お母さんは当惑した様子だった。
「ところで、お父さんは何ておっしゃっていますか?」
私は何て答えたら良いものかと考えながら聞いてみた。
「夫ですか? やるのは本人なんだから、やらせてみろって・・・パパは娘に甘いんだから・・・」そう言って、Yちゃんを見た。
「そうですか。」私は少しほっとした。
「Yちゃんと少しお話させてくださいね。」そう言って、Yちゃんの目を見て、「どうして、ピアノを習いたいと思ったの?」と聞いた。
「だから先生、さっき私が言ったように・・・」お母さんがまた喋り出した。
私はお母さんの話を手で遮り、「私はYちゃんと直接お話ししたいのです。」と言った。

お母さんの隣に座って固く両手を握りしめていたYちゃんは、しっかりと私の目をみて話し始めた。
「Yね、ピアノが弾けるようになりたいの! どうしてもピアノが弾けるようになりたいの!」
「だって、ピアノの音って素敵だもん。だから私もピアノが弾けるようになりたいの!」大きな声だった。
お友達の家に遊びに行った時、その子が今練習している曲や、アニメソングを弾いてくれた。「教えてあげる!」と言ってくれたので、毎日学校帰りにその子の家に行き練習していたそうだ。
でも、お友達のように指が動かなくって悲しかったこと、上手に弾けなくてもピアノの音を出しているだけですごく楽しかったこと、目をキラキラさせて話してくれた。

ああ、これ以上何が必要なんだろう・・・ピアノを弾きたいという気持ち以上に必要なものなどあるのだろうか。

「あなたには才能ありますよ!」私ははっきりと言った。
Yちゃんのこぼれるような笑顔!
「やったー! ママ! 才能あるって!」
飛び上がってお母さんにだきついている。
「先生、本当ですか?うちの子に才能ありますか!」
見ると、お母さんの目がうるんでいる。

そうして、始まったピアノのレッスンだったが、Yちゃんのお母さんは本人以上に熱心に練習に付き合ってくれ、発表会の時には、お父さんは写真係、お母さんはアナウンスまでやってくれた。

後で聞いた話だが、お母さんも自分が子供の頃、本当はピアノを習いたかったんだって。

がんばれ! Yちゃん!


長廻かおる

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