1. TOP
  2. レッスンについて
  3. ピアノコラム
  4. [おにぎりの差し入れ]心のすき間を埋めるもの

ピアノコラム piano column

 

[おにぎりの差し入れ]
心のすき間を埋めるもの

私が群馬で音楽教室を始めたとき、娘はまだ幼稚園に通い出したばかりだった。
ピアノのレッスンは大抵午後3時位、子供達が幼稚園や小学校から帰ってくる時間から始まり、寝るまでの間が仕事時間となる。
つまり、自分の子供が家に居る時間が、ピアノ教師としての時間と重なるのだ。
私の家は一階がレッスン室で、二階が住宅となっているが、同じ家のなかに母親がいるのに、子供が帰宅した時にレッスン中だと、「おかえりなさい」と出迎えて上げることが出来ない。
二階のリビングのテ-ブルに、毎日のおやつ、時には、ラップをかけた夕食を幼い我が子は一人で食べる事がしばしばあった。
こんな時、近くにおじいちゃん、おばあちゃんがいてくれればどんなにか心強い事か!と思う。
しかし、出来ないモノは出来ないのだ。
幼い娘には、かわいそうだが、働かなくてはならない。
お金を頂いている以上、レッスン室に我が子を入れる事はない。
自分の子供と同じ位のお子さんをレッスンしている間、娘は独りぼっちでおやつを食べ待っている。

「先生、お子さんに、これ…よかったら食べて下さい。」
そう言ってSさんのおかあさんが紙袋を玄関に置いて行った。
開けてみると、おにぎり!それもひと口大の小さなおにぎりが箱いっぱいに入っていた。
一緒のタッパには卵焼きやミニハンバーグ、お漬物等、まるでピクニック弁当みたい!
Sさんもシングルマザーで働きながら子育てをし、仕事帰りピアノのお稽古に通っている。
彼女は知っていたのだ。
私がレッスンをしている間、娘が独りぼっちでお菓子を食べながら母親の帰りを待っていることを。
ありがたいことだ!
度々Sさんは娘に、とおにぎりの差し入れをしてくれた。
Sさんの子供自身もしばしば独りぼっちで留守番をしているそうだ。
だからピアノを習わせた。
「だって、独りぼっちで寂しい時でもピアノがあれば少しは気が紛れるでしょう。」
とSさんは笑った。
音楽が心のすき間を埋めてくれる…と。


長廻かおる

Back to List

 
ページのトップへ戻る