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ピアノコラム piano column

 

[ひらがなばかりのてがみ]
ピアノだいすき!Tちゃんの話

[ひらがなばかりの
てがみ]
ピアノだいすき!
Tちゃんの話

その小さな手はグーとパーは出来るのだが、チョキをすると一本指に成ってしまうくらい、思うように動かすのが難しい。
Tちゃんはピアノを習い始めてすでに半年が過ぎた年長さんだ。

はやい子なら、この段階で童謡程度のやさしい曲が両手で弾ける時期だ。だが、Tちゃんの指の動きはどうにもギ.コ.チ.ナ.イ。

ピアノは何歳からでも始められるし、特別な保管やメンテナンスをしなくてもフタを開ければすぐ音が出せる、実に取扱いの楽な楽器だ。しかも、一人でも複数でも演奏可能で、メロデイーも伴奏も弾ける。一人でオーケストラを動かしている様なものだ。
だからこそ、短期間に世界中に普及し、楽器の王様とよばれるのだろう。 取り扱いは簡単でも、簡単には弾けるようにはならない。そもそも、両手を別々に動かすという事自体が難しい。それも10本指を別々にだ。
だからこそ、なるべく小さな子供の内にレッスンを始めた方が、苦労少なく弾けるようになる。もちろん、苦労少なくと言っても一人一人の指の動きや、運動能力、音感など、条件はそれぞれ違うのだから、苦労の量もそれぞれだ。

Tちゃんは日頃はとても活発で、明るく、何でもハキハキと話し、片時もじっとしていないくらい良く動く。決しておとなしいタイプではない。むしろ、反射神経の発達したすばっしっこい子に見える。
だが…指が…ウゴカナイ…
親指から小指まで順番に1.2.3.4.5.と番号を付けピアノのドの音を1指で、レの音を2指で、と指一本づづ動かす練習をする。
チューリップの曲だ、右手で、ド.レ.ミー、ド.レ.ミー、を1.2.3―、1.2.3―、と弾きたいのだが、Tちゃんの指は2.2.3-、2.2.3-、となり1指が出てこない。
別の指で弾いても、メロデイーが合っているのならそれでも良いじゃないかと思われるかもしれないが、これが後々問題を引き起こす。習い始めの段階で、5指全部を動かす練習をしておく事が大切である。Tちゃんの親指に問題があるらしい。
私は大きな画用紙を出し、くれよんで大きく○を書いた。Tちゃんにも同じように書いてもらった。 
Tちゃんは1指と2.3.4.5.指でグーをしているように持った。
つまり、1.2.3指ではさむ形では無かった。
小さな子供には良くある事だが、ある程度の年齢になり、おはしを持つようになる頃から、周りにいる大人が子供にちゃんとした持ち方を教えるのだが、Tちゃんは少し遅かったようだ。
あと数か月で小学校入学だ。おはしはどう持っているのか、お母さんに聞いてみると、やはり、くれよんと同じ様に、突き刺すように持っているとの事。
おはし、えんぴつの正しい持ち方を教えなければならない。本人が困らないように。
本来なら、ピアノの先生がやるべき事では無いのだが、どうやら、お母さんは別に気に留めている様子が無い。

ピアノの椅子から降り、大きなテーブルの上に大きな画用紙を広げ、1.2.3指でくれよんを持たせ、その手を上から握り、大きく○を描いた。いろいろな色で、いっぱい描いた。
まるで、たくさんのしゃぼん玉だ!
見ると、Tちゃんは鼻の頭に汗をかきながら、一生懸命くれよんで○を描いている。
指はしかっりと1.2.3指でくれよんを握っている。
今日のレッスンはシャボン玉だったね。私たちは、しゃぼん玉の歌をうたいながら、くれよんの次はえんぴつ!とまた○を描いた。

その日の宿題は、正しい持ち方で○を描いてくる事だった。
その後、ピアノのレッスンは、親指1本で弾く曲、1.2指だけで弾く曲、1.2.3指で弾く曲、と少しづつ進んでいき、5指全部が使えるようになったのは、数か月後だった。

もうすぐ小学校入学だ。Tちゃんは毎日書き方とピアノの練習をしている。
「うちの子、何でも遅くって…、こんな調子で小学校行っても大丈夫でしょうか?」お母さんが心配そうに聞いた。心配そうなTちゃんの顔。
「大丈夫、あなたは立派な小学生になれますよ!」私は大きな声で言った。

4月になり、Tちゃんは5指全部で、チューリップがスラスラ弾けるようになった。
黄色い帽子をかぶり、ランドセルをしょったTちゃんがレッスンに来た。
「せんせいにお手紙書いた!」とTちゃんは私に人魚姫の絵のついた封筒を渡した。
何だろう?と思って中を開けると、色とりどりのくれよん、えんぴつ、ボールペンで大きく『せ.ん.せ.い.だ.い.す.き。 ぴ.あ.の.だ.い.す.き。』と書かれていた。

Tちゃんありがとう! お手紙は先生の宝物だよ!


長廻かおる

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