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ピアノコラム piano column

 

[朝7時からレッスン]
ダウン症のP君

P君は来年小学校入学を予定している男の子だ。
2歳年上のおねえちゃんのピアノのレッスン時、お母さんが一緒に連れてくる。
レッスンの間は、とても静かにキチンと椅子に座り、膝の上でお絵かきをしているが、お母さんに抱かれ寝ている事も多い。
普通、幼稚園児だと、いくらお母さんが「静かにしなさい」「キチンとお座りして」等注意しても、じっとしている等と言うことは皆無と言って過言でないくらい良く動く。
座っていたかと思えば、床に寝転んだり、お絵かきしていたかと思えば、部屋の中を探検していたり、家の中にあるモノ全てがオモチャに成るのだ。
P君のあまりの静かな様子に私の方が、不安になってしまう。
レッスン中は確かに、静かな方が助かるのだが…
私は思い切ってP君のお母さんに聞いてみた。「家でも、このように静かなんですか?」
すると、お母さんは当惑した様子で、「うちの子、普通じゃありませんか?この子、外ではとてもおとなしくしてくれるのですが、家では一旦爆発すると、手が付けられない位暴れる事が多くて…幼稚園でもいつも一人ぼっちでお友達と遊ぶことがないんです…」聞こえないほどの小さな声で、教えてくれた。

もしかしたら…もしかしたら…私は次の言葉を飲み込んだ。
P君のおねえちゃんのレッスンが終わり、子供たちが寝たであろう時間にP君のお母さんに電話をかけた。お会いしてお話ししたいと。

翌朝、子供達を送り出してからP君のお母さんがやって来た。
思い切って、私が心配している事を聞いてみた。
「もしかしたら…病気?」
心配が的中してしまった。
お母さんによると、幼稚園ではほとんど声を出さず、歌うこともなく、絵本や玩具にも興味を示さず心配していたら、小学校の就学時検診で普通学級進学は無理と言われ、親として途方に暮れている…、話しながらお母さんは泣いていた。
おとなしくて、手がかからず、良い子だとばかり思っていたのに…涙…涙。
子供を持つ同じ親として、気持ちはよく解かる…まさか我が子は…

しかし…
何か出来る事は無いだろうか?私が出来る事と言えば音楽だけだ。
「『音楽療法』をやってみませんか?
どの位効果が出るかは、正直やってみなければ解かりませんが、今やれること何でもやってみましょう!」P君のお母さんは、また泣いた。大きな声で泣いた。
そうして、『音楽療法』としてのリトミックを始める事となった。

朝7時!
P君、小学校に行く前のランドセルをしょったおねえちゃん、出社前のお父さん、パートが始まる前のお母さん、家族全員参加のレッスンだ。
少しでもP君の環境をリラックス出来るようにして、音楽に合わせ歩く所から始まったレッスンだ。音が止まったら、足も止める。
家族みんなでP君と手をつなぎ歩く姿は、なんだか楽しそうで、音楽に合わせ走る所では、床にへたり込んでしまうP君をお父さんが肩車をし、走ってくれた。思わずはじけるP君の笑い声!
フラッシュカードに合わせタンブリンを打つ所では、おねえちゃんがP君の肩越しに手を重ね一緒に叩いてくれた。
今はまだP君の反応は小さいが、その瞳はなんだか楽しそうだ。
いいぞ!いいぞ! このまま行こう。音楽って楽しいね!P君!
家族みんなで一緒に出来る今、この時、P君は輝いているよ!

がんばれ!P君!


長廻かおる

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