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ピアノコラム piano column

 

[頑張ったお父さん]
発表会でベースギター

みんな緊張していた。
今日は発表会、本番なのだ。
舞台の大きなグランドピアノの前には小学校3年生のAちゃんとお母さん、ピアノの横でマラカスを持ち立っているのは幼稚園年中の4歳の弟、そして、ベースギターを持ち武者震いと言いながら少し震えている様子のお父さんだ。
曲目は、「イン ザ ムーン!」4人家族全員総出演だ。
「ワン、ツー、スリー、フォー!」ベースギターのお父さんが大きな声で合図をすると、ドミソド、ド、ド、ド、ド、シドソミ・・・演奏が始まった。
ドキドキしながら見ていたのは先生だけではない、Aちゃんのおじいさん、おばさん、それにリハーサルから見ていた会場中のお客様もみんなだ。

ここまで来るのが大変だった。

Aちゃんがピアノを習いに来たのは3年前、小学校入学と同じ時だ。
当時、お母さんはAちゃんがピアノを習う事をお父さんには秘密にしていた。
聞くと、お父さんが反対しているらしい。
「子供は元気に外で遊びなさい!」と言うが・・・
実は、昔お父さんが子供だった時、無理やりピアノを習わせられたのがトラウマになっているらしい。
それでもお母さんはひるまなかった。
お母さん自身は、やはり子供のころピアノを習っていたが、上手になる前にやめてしまった事をとても後悔している。
もう少しつづけていればよかった・・・そう言うお母さんの顔からはAちゃんに対する期待が感じられた。

いつも帰りが遅いお父さんにはピアノの事を秘密にしても大丈夫と言う事で始まったレッスンだが、どうも私には引っかかるものがあった。
たとえて言うならば、おいしいお菓子をお父さんにはないしょで食べているような・・・

秘密のレッスンが3年目になった時、私は思い切ってAちゃんのお父さんに電話をかけ、ピアノのレッスンの事を話した。
Aちゃんの気持ち、お母さんの気持ち、せっかくの子供の成長を一緒に喜び応援して欲しいと一生懸命訴えた。
「知っていました。ずっと前から・・・」お父さんは言った。
「Aちゃんが練習して、だんだん上手になってきたことも。私は知っています。」
お父さんには話してくれた。
習い始めの頃こそ賛成はしていなかったが、Aちゃんが毎日一生懸命練習している音を玄関の外で聞いて、心の中で応援していたのだ。
ただ、みんなが秘密にするものだから言い出せなかったと。

よかった。
私は提案した。「家族全員で音楽しましょう!」と。
そして、今日の発表会となったのだ。
曲はお父さんが好きなジャズアレンジの「イン ザ ムーン!」
今回一番沢山練習したのはお父さんだ!
自分が高校生のころ弾いた事のあるというベースギターを引っぱり出し、Aちゃんの弾くピアノに合わせ、何度も何度も練習した。
リハーサルの時も自分で何度もダメ出しをしながら繰り返し練習していた。

拍手!拍手!拍手!

家族全員の演奏はとても素敵だった!
「来年の発表会はA列車にしよう!」そう言ったのはお父さんだ。
みんなニコニコしていた。興奮で頬が赤い。

やったね! Aちゃん! 音楽って楽しい!


長廻かおる

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