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ピアノコラム piano column

 

[コンクールは大変!]
たおれたのはお母さん!

Mちゃんは3歳の時から私の所で、ピアノを習っている。
レッスンの時はいつもお母さんも一緒。
お母さんはレッスンで先生が話すことをノートにメモを取り、時にはビデオに録画も撮ったりと、大変熱心だ。
練習も大変良くしてくる。もちろん家での練習の時も、お母さんはMちゃんの隣に座ってしっかりと見ていてくれる。
Mちゃんのピアノはぐんぐんと上手になってきた。

Mちゃんが5歳になった時。 お母さんは一枚のチラシを持ってきた。
見ると、ピアノコンクール! のお知らせだ。
「先生、Mにこのコンクールは無理ですか? 力だめし・・・と言っては何ですが・・・」そう言って、準備してきた課題曲の楽譜を出した。
「就学前、幼児の部です。」
Mちゃんなら十分に弾きこなせるレベルの曲だった。私は誰にでもコンクールを勧める事はしないのだが、この熱心な親子には良い勉強になると思った。

課題曲のレッスンが始まると、今までにも増してMちゃん親子は熱心に練習してきた。
いくら幼児の部とはいっても、コンクールだ。
1小節、1音1音を丁寧に歌う事を教え、ずい分と曲がまとまってきた。
私は初めてコンクールを受けるMちゃんが、本番でベストが出せるように細心の注意を払ってレッスンした。

コンクールの日が近づいた。
Mちゃんの演奏はピカピカに光っていた。
よし! いけそうだ!

私は平静を装いながらMちゃんとお母さんに言った。
「今まで、本当に良く練習しましたね。とても素敵なピアノです。
ただ、コンクールと試験は水物と言って、本番何が起こるかわかりません。忘れるかもしれないし、つっかえる事だってあるかもしれません。何が起こっても、舞台の上では、先生もお母さんもMちゃんを助けてあげることは出来ません。どんな時でも、自分の音を良く聴いて、心の中で良く歌って、音楽を楽しんで弾きましょう!」
Mちゃんもお母さんも一緒にうなずいた。
私はお母さんに、今晩はあまり練習し過ぎないで、いつもよりたっぷり寝かせてあげるように、また、プレッシャーをかけすぎないようにと言い「体調管理こそ一番大事です!」
と重ねて注意をした。

コンクール当日の朝、まだ6時に電話がなった。
Mちゃんのお母さんだ。
「先生、すみません・・・熱を出しました・・・」泣き声だった。
「私が、私がいけないのです・・・」
私はあわてた。昨日は元気だったではないか。
あんなによく頑張ったのに・・・熱?
あんなに楽しみにしていたコンクールなのに・・・出られないの?
頭が真っ白になった。
何て言って慰めればよいのだろうか・・・

「先生、Mはママがいなくても、コンクールに行くと言っているのですが・・・」

ええっ?

良く聞くと、Mちゃんは元気なのだ。熱を出したのは、お母さんの方ではないか!
良かった!
「私が連れて行きます!」そう言って、大急ぎで準備をしMちゃんの家に向かった。

Mちゃんが玄関に1人で立っていた。
Mちゃんのお父さんは今アメリカに出張中だ。家には熱を出して倒れてしまったお母さんが、泣きそうな顔をして待っていた。
お母さんが今日のために準備したピンクのドレスと白いエナメルの靴を車につみこみ、Mちゃんの朝ごはんとお母さんのおかゆを作った。
一緒に朝ごはんを食べ、最後の練習をし、私たちはコンクール会場へと向かった。
熱を出したお母さんだけが家に残った。

コンクール会場でMちゃんは立派だった。
Mちゃんのピアノはピカピカと光っていた。
今までで一番良い演奏!
こんな小さな子が、お母さんもいなくてどんなにか心細かっただろうに・・・そんな影すら感じさせない素晴らしい演奏だ!

帰りの車の中でMちゃんは言った。
「あーたのしかった!!」
手にはコンクールで頂いたトロフィーがしっかりと握られていた。
「ママよろこぶかなあ・・・Mね、らいねんもコンクールでる!」
がんばったね! Mちゃん!


長廻かおる

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