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ピアノコラム piano column

 

[ウイーン国立音楽大学 入学試験]

私が留学していた「ウイーン国立音楽大学」は、世界で最も権威があり、伝統、格式、教育内容、指導教官、音楽家としての環境等、全てにおいて最高レベルの大学である事は皆さんご存知の通りです。
多くの著名な演奏家のプロフイールにも多々載っているので、名前は知っている人も多いと思いますが、はたしてその内容はご存知ですか?

私が留学していた1980年代の話です。
まだ留学も海外旅行もポピュラーでなく、料金も高額になる個人で海外に行く人は少なく、まして若い女性が一人で生活しながら音楽の勉強をするなど夢だと思っていました。

ウイーンはオーストリアの首都(オーストラリアではありません)で、地図を見るとヨーロッパの中央に位置し、西はスイス、北はドイツ、東はハンガリー、南はイタリアと陸続きです。
モーツアルト、ベートーベン、シューベルト、ブラームス、シュトラウス、マーラー、ブルックナー、シェーンベルク…等
多くの作曲家、名演奏家が生まれました。
第二次世界大戦後国が分割され今でこそ小さな面積になりましたが、ハプスブルグ家の威力は凄いもので、文化を大切にし、特に音楽においては他に類を見ないほど、環境が整っています。

「ウイーン国立音楽大学」の中には、作曲科、指揮科、演奏科、教育科があり、演奏科の中には、ピアノ以外にオーケストラで使用される楽器全て(指導者はウイーンフイルハーモニー管弦楽団の演奏家)、室内楽、声楽科(オペラ、リート)、伴奏科等、音楽に関する全ての科目があります。
その世界最高のレベルを求め、世界中から留学生が集まって来ます。

当時は、ウイーン市の人口約160万人に対して音楽留学生(プライベート)が約6,000人、ほとんどが観光パスポートで、プライベート個人レッスンを受ける学生です。
<プライベートレッスン>とは、学校等に所属せず、ワンレッスンでお金を払って個人的に先生の自宅でレッスンを受ける事です。
多くの留学生の中で「ウイーン国立音楽大学」に登録した学生(聴講生)が約500人、 <聴講生>とは、授業を見学する事は出来ますが、レッスンを受けるとは出来ません。
入学試験に合格している正規の学生は約200人程度です。
その内、日本人では聴講生が約100人、正規の学生は約30人程度。
<程度>と言うのは、卒業前に退学者が多いからです。
 
正規の学生で言うと、一番多いのがアメリカ人で、現在は中国、韓国、日本と並び、 ナント!地元のオーストリア人は、1年で1~2名しか入学出来ない難関大学です。
超狭き門で正規の学生となっても卒業時に国家試験に合格するのは10人程度。
日本と違い、入学さえすれば真面目に勉強しても…卒業できるという訳ではありません。

入学試験はソルフエージュ(聴音)、楽典、ドイツ語面接、実技演奏ピアノでは(バロック、古典ソナタ、ロマン派、近現代曲)を舞台で演奏しました。
私が演奏した時は、平均律プレリュードを数小節演奏した時に「ダンケ、ソナタを弾いて」と言われ、ソナタの第1楽章の1ページも弾かないうちに「ダンケ、第2楽章を」また数小節で「ショパンを」、数小節で「ラベルを」と、どれもほんの少し演奏しただけでした。
わずか10分程度の演奏…「駄目だったのだろうか…」と思って審査員の先生を見たら、「彼女を取りたい人は?」と先生同士で話しているのが聞こえました。
数人の手が上がり、一人の大柄な先生が私に向かい
「フロウラインカオル。君は誰に習いたいのか?」と聞くのです。
「プロフエッサーフラシュマン!ビッテ!」と私が言うと、フライシュマン先生が舞台までやって来て、「おめでとう!」と言って握手をしました。

これって合格?
日本なら掲示発表ですが、ウイーン国立音楽大学は違うようです。

数日後、音大事務局で確認すると、新入生の所に私の名前がありました!
直ぐに、健康診断を受け、学生証発行、授業登録となり、レッスン打ち合わせで初めてフライシュマン先生の門下生全員と会うことになりました。

日本人は私1人、他にはアメリカ2人、イギリス、ドイツ、フランス、インド、アルバニア、ハンガリー、オーストラリア、オランダ、イタリア、スペイン、中国、韓国、台湾各1人、地元オーストリア4人。年齢は16~30歳と凄い幅がありました。

その場でレッスン時間が決められ、勉強する曲をもらいました。バッハ、ハイドン、ショパン、ブラームス、ドビッシー全て新曲です。
「来週のレッスンまでにアンプしてきなさい。」

にこやかに微笑みながらフライシュマン先生の声が大きく厳しく聞こえました。


長廻かおる

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